こんにちは、ほしみです。
ティラノスクリプトとティラノビルダーを使いはじめて5年が経ちました。それなりに触ってきて、いくつか見えてきたことがあります。
自分はティラノシリーズを推していて、今後も使っていくつもり。ただ、「使うかどうか悩んでいる」というヒトもいるとおもうので、その決断の一助をめざしつつ、情報の整理のためにもメリット・デメリットの考察をまとめておきます。
この記事の目次
デメリット
まずデメリットの考察からまとめます。基本的にはティラノシリーズをオススメするので、後半にメリットを語ってシメようとおもいます。
サポートは基本的にない
無償サポートは基本的にはないです。ティラノシリーズはかなりのユーザー数がいるので、開発をパンクさせないための措置だとおもわれます。
ゲーム制作ツールとしては珍しく、フォーラムも存在しません。
確実なサポートがほしい場合は、法人契約になるようです。
フォーラムがないので、いくらバグ報告してもどのバグを解決するつもりなのかはわかりません。またほかのユーザーがどんなバグに遭遇しているのか、どのバグが仕様なのかもわかりづらいです。
ティラノシリーズで開発するなら、基本的には自力で答えをみつけだす必要があります。
一応クローズドな質問掲示板があるので、どうしてもわからないことがある場合はそこで質問するのも手です。ただしクローズドで目立たない位置に隠されているので、回答者は少ないかもしれません。
▼ ティラノスクリプト質問掲示板公式(要パスワード入力)
高い安定性や高速性はない
ティラノシリーズに高い安定性や高速性がないのは、Chrome対応のためです。
ブラウザゲームとして公開できることが重視されているため、そもそもの機能性が制限されており、コンシューマ・PC向けの高機能なゲームにはあまり向きません。商業実績もほとんど見つけられないです(もちろん非公開にしている可能性もありますが)。
年単位で放置されているバグもたくさんありますし、処理能力もかなり控えめで重くなりやすいエンジンです。効果音やアニメーションを多く含む動的なゲームにも向きません。画像の瞬間表示も苦手です。変数の処理やマクロの呼び出しも遅延が生じやすいです。
PC環境の影響もかなり受けやすく、「再現しづらいたまに起こるバグ」といった最もおそろしい系統のバグに遭遇することもあります(おそらく処理が重くなるときに一部の命令がすっ飛ばされる)。あまりハイスペックなPCで複雑な実装をしていると、それらのバグを見落とす可能性もあります。
ブラウザ対応というすばらしいメリットがある一方、そのぶん大きなデメリットを背負っていることは念頭においたほうがいいとおもわれます。
またとつぜん大きな仕様変更が行われ、スクリプトの記述方法がいちじるしく変わったにも関わらず、どこが変わったのかほとんどアナウンスされないということもあります。そういう意味でも開発が安定しづらいです。
素で使える機能数は少ない
ティラノシリーズは吉里吉里のKAGと高い親和性をもつスクリプト言語を使い、ノベルゲーム制作に必要な機能はおおよそ揃っていますが、素の機能だけでは本当にシンプルなノベルゲームしか作れないとおもいます。吉里吉里のすべての機能がそなわっているわけでもありません。
有志によるプラグインや、JavaScript・CSSの改造がなければ、できることはかなり限定されます。またプラグイン同士の干渉や、改造による干渉もあるので、機能を増やすほど不安定性が増すこともあります。
「できること = ちゃんとできること」ともあまり思わないほうがいいです。Live2D、Spine、翻訳、3D、スマホアプリ化────「おおっ」とおもう機能や補助ツールが公開されていても、不具合や動作性や利便性が改善されないまま長く放置されているということはよくあります。「できるとは言っているけれど実際はできない」みたいなことは多いです。
多少でも複雑なことがしたいなら、改造の覚悟がいります。またガッツリ改造するくらいなら、最初からUnityを使ったほうが将来性があるというところもあります。
「高機能なノベルゲーム専用エンジン」という枠ならRen’pyやLight.vnのほうが高機能です(ただし両者はネット上の情報がすくなく難しい)。またSwitchなどのコンシューマを目指すなら実績多数で安定性の高いArtemis Engine(ガチ勢向け)のほうが堅実でしょうし、「移動式のアドベンチャーゲーム」を作りたいならRPGツクールやウディタのほうがはるかに作りやすいです。
画像やアニメメーションの配置がタイヘン
ティラノシリーズは画像の位置調整が大変です。
スクリプトに画像の大きさや座標を数字で打ちこみ、シナリオまで飛んで見え方を確認しながら微調整が基本になります。おそろしく手間です。アニメーションさせるならもっと手間です。
一応GUI式の画像配置サポートツールはありますが、執筆時点ではあまり実用的とはいえません。デバッグの左上矢印ボタンから画面の要素を選択し、CSSを調整するほうがまだマシだとおもいます。あるいはPhotoshop上で画像を配置し、「範囲選択⇒情報ウインドウで大きさを確認」「カーソル合わせ⇒情報ウインドウで座標を確認」するとか。
▼Photoshopで画像の「座標」「サイズ」を確認する方法
またティラノはアニメーション周りがかなり苦手で、動作も重く不安定です。とくにLive2DやSpineの活用に期待している場合は肩すかしを食らうかもしれません。学習コストをかける前に、真っ先にアニメ周りのテストをして使い勝手を確認したほうがいいとおもいます。
気軽にゲームをアップデートできない
ティラノスクリプトの「マクロ(命令をまとめておく機能)」を使う場合、現在の仕様ではゲームをアップデートすると基本的に過去のセーブデータが使えなくなります。
なぜこんなことになるかというと、ティラノスクリプトには「ロード後のマクロ参照位置は以前のセーブデータのものになる」という厄介な仕様があるからです。結果「アプデ後のマクロ」と「アプデ前のマクロ」に齟齬が発生し、ゲームが止まります。
「マクロをアプデ時にいじらない」あるいは「セーブ/ロード方法を工夫する」などの対応が必要です。
またシナリオファイルを変更した場合も、変更した行数分だけロード時にズレるので注意が必要です。
最近のゲームはアップデート前提で開発されているものがおおく、ティラノのこの仕様はかなり致命的といえます。アップデートを予定している場合はくれぐれもご注意ください。
商業やスマホアプリの実績がほとんど見つからない
ティラノシリーズはブラウザ・PCを中心にしたフリーゲーム・同人ゲームの実績こそ多数見受けられますが、商業やスマホアプリ対応の実績はほとんど見つかりません。
スマホアプリのパッケージング方法を解説したページや対応ツールは一応存在しますが、情報量はひかえめで、かなり難易度が高いです(最もタイヘンなGoogle対応・Apple対応が独学にまかされている)。それにともないスマホアプリを投稿しようとするユーザーも少なく、有志による情報もほとんど見つかりません。
アプリ内課金やAdMob広告実装の情報もなく、GooglePlayやAppStoreで公開したい方は相当な独学が必要になるとおもいます。またそもそもスマホアプリにするなら、対応プラグインの多いUnityで作るデベロッパーが多いのかもしれません。
ティラノシリーズはとにかく「ブラウザ対応」に特化していて、執筆時点ではダウンロード型アプリの開発支援よりも投稿型コミュニティサイトの運営に注力しているという印象です。
メリット
さきにデメリットを挙げましたが、それでもティラノシリーズが広く使われているのにはやはり理由があります。
最新技術を多く取りいれている
3D、AR、E-mote、Live2Dといった最新技術を積極的に取りいれています。
まだテスト実装のものが多かったり、重かったりもしますが、比較的リッチな表現のノベルゲームを作ることができます。
古いノベルエンジンのほうが高い安定性を有していることもありますが、最新機種と互換性がなかったり、開発停止で次世代技術の投入がなかったりします。
新しさという意味でも、ティラノシリーズは魅力的なわけです。
▼ Live2Dデモ
ブラウザ特化ゆえの豊富なデモ
ティラノシリーズはチュートリアルやサンプルデモが豊富です。
とくに豊富なのはデモ。ブラウザ特化のツールなのでネット上でデモゲームをプレイできます。
▼ 基本機能が試せるゲーム
ここまで学習に手厚いゲームエンジンはあまりないです。
使用者が多い
使用者が多いツールは、とにかく情報収集がラクです。
どんなにベンリでカンタンで高性能でも、ネットの情報がすくなければ開発はむずかしいです。海外ツールを使う時にありがちです。
ティラノシリーズは比較的歴史も長く、ネット上にたくさんの情報が残っています(古い情報もありますが)。また、さらに長い歴史をもつ吉里吉里のKAGとも多少の互換性があります。
サポートやフォーラムが機能していなくともに、豊富なチュートリアルやデモ、ユーザー数の分母で情報量を補っているわけです。
有志のプラグインが多い
使用者が多いことに関連して、有志によるプラグインの数が多いです。
ティラノシリーズは素の機能こそ少ないですが、豊富なプラグインによって化けます。テーマの一括変換、428のようなTIPS、システム拡張、そのほか便利な機能。
▼ ティラノプラグインライブラリ
また、公式に掲載されていない便利なプラグインもあります。そういったプラグインはプラグイン開発者のサイトから手に入れることができます。
専用の投稿サイトやフェスがある
▼ ノベルゲームコレクション
▼ ティラノゲームフェス
フリーゲーム制作者を中心に、多くのユーザーが参加しています。ノベルゲームエンジンというくくりでは珍しい試みで、相当な規模になっています。
サイトのUIや要項もわかりやすく、気軽に参加してみるのもいいとおもいます。開発者同士の交流もできるかもしれません。
ティラノビルダーがあまりにも簡単
ティラノスクリプトのGUIタイプ、ティラノビルダー。
ドラッグ&ドロップでほんとうに簡単にノベルゲームがつくれる。Steam版を使えば自動アップデートもラクです。
Pro版は有料ですが、公式サイトに無料版もあるので試しやすいです。
▼ ティラノビルダー スタンダード版(無料)
マルチプラットフォーム対応
JavaScriptベースというのもあり、あらゆるプラットフォームに対応しています。
プラットフォームによって動作の安定性は変わるとおもいますが、ブラウザ含めてここまで柔軟に対応しているゲームエンジンはなかなかないです。
PC版(とスマホアプリ版)を公開、お試し版はブラウザで────なんてことも比較的カンタンにできるわけです。(スマホアプリ化は情報量が少なすぎてなんとも言いづらいところはあります)
CSSとJavaScriptの知識が活きる
私はJavaScriptにはあまり詳しくないのですが、CSSに関してはブログ運営している関係でそれなりの知識があります。
CSSを活用するだけでも「見た目のカスタマイズ」が容易にできます。またJavaScriptを活用して複雑なプラグインやシステムを生みだしている開発者の方もいます。
素の機能数こそ少ないですが、有志のプラグインやマクロ、CSSやJavaScriptの知識があれば比較的高い拡張性をもちます。
楽しい
これは総合的な所感です。
ティラノシリーズは「ユーザーの〝楽しい〟」を最も重視しているように感じます。言いかえれば「ゲームをカタチにしやすい」。だからこそこんなにもフリーゲームや同人での利用者が多い。
複雑なシステムや演出を実装するつもりさえなければ、とにかくノンプログラマーにやさしいです。自分のアイデア次第でひとつのゲームをつくれる。
また新機能を待つ楽しみや、ほかのユーザーのアイデアをみる楽しみもあります。これからが楽しみなツールです。
まとめ「PC向け静的ブラウザノベルに特化」
本格的なゲームクリエイターを目指す方は、UnityやUnrealEngineなどを使うべきだとおもいます。ティラノシリーズを商業ベースで採用するところはあまりないです。
複雑なシステムの実装には向きません。作りこめば作りこむほど「安定性と高速性のカベ」にブチ当たります。バグもはっきり言って多いです。未だに商業エ○ゲメーカーの多くが古い吉里吉里シリーズを使い続けているのは、このあたりが一因だとおもわれます。
また「スマホアプリやSteamやSwitchで出したい!」という場合も素直に別のツールを使うべきだとおもいます。あくまでティラノ専用の投稿サイトに特化したツールであり、ほかのプラットフォームでの公開はあまりサポートされていません。
どちらかというとティラノシリーズは、学習コストはかけたくないけど比較的新しいことがしたい、ノンプログラマーな個人クリエイター向けです。つまりシナリオライターやイラストレーター向けで、かつバグの多さや不安定性をある程度許容できる方向け。
いろいろなゲームエンジンに触ってみましたが、触るたび「日本語情報の少なさ」というカベにブチ当たり、「ティラノはなんて日本語情報に恵まれてるんだろう……」と思い知らされます。(もちろんフォーラムが存在しないという決定的なデメリットはありますが)
UnityやGameMakerでもノベルゲーム用のアセットはありますが、基本的には元ツールを使いこなす必要があるし、海外製アセットの場合は英語解説だし、学習コストがとても高いです。
学習コストを最小限に、ノベルゲームを「完成させたい」。
そんなヒトにティラノシリーズはオススメです。
今回は以上です。よきノベルゲームライフを────ではまたφ(・ω・ )
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