ヒステリックなヒロインの話【制作日誌】

「ヒステリー」という言葉は、現代の精神医学ではあまり使われなくなっているらしい。


ヒステリーの語は、長らく女性特有の疾患と誤解されていて、古典ギリシア語で「子宮」を意味する「hystera」を語源とするくらいだった。


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19世紀後半にシャルコーの睡眠療法やフロイトの精神分析が行われ、「無意識への抑圧」などの考察がされた。1990年代になって、精神疾患を「原因で分類」するのではなく「症状で分類」する方法が主体となり、1994年に発表された『精神障害の診断と統計の手引き 第四版』では「ヒステリー」の言葉は消滅し、「解離性障害」と「身体表現性障害」に分類されることになった。


このような経緯に加えて、「ヒステリー」の言葉が昨今で雑多な意味として用いられていることがある。なんにせよ「ヒステリー」にはもともと「病気」の意味が付属していて、いい印象はない。もっぱら「ヒステリー」は、興奮で感情をコントロールできなくなる様子のことで言われる。


いま書いている『拡張彼女』のヒロインの一人は、よく激情する。怒ったり、泣いたり、笑ったり、喜んだり。感情の起伏がすごく激しい。その一面は、果たしてヒロインとして読者に受け入れられるのか。そういうことを、ちょっと悩んだ。


「好まれるヒロイン」ってのは、そもそもなんなんだろう。「こういうヒロインは好かれる!」みたいな定型は、あるんだろうか。


もっぱら自分は「男性向け」のつもりで書いているけれど、どうも女性層にも読まれているフシがある。もうオタク産業は冴えない男だけのものではない感じだ。世知辛い。


「男」だけに向けたものなら、男にとってだけ都合のいいヒロインを書けばいい。でもそこに「女」がいたら、そんな「男にとってだけ都合のいいヒロイン」についてどう思うんだろうか。


自分は男だから、男にとって都合のいいヒロインを書く。でもそこばかりに傾けば、反感を買う。でもそこで抑えれば、支持は得られない。バランスを……とか考えていたら、袋小路に迷い込む。


「人間を書こう」っていつも思って書いている。「人間」を書いているつもりでいたら、ヒステリックなヒロインが一人できてしまった。


ヒステリック。それもまた「人間」なんだろうけど、果たして「好かれるヒロイン」なんだろうか。このヒロインはほとほと強く「愛されたい」という感情を持っているので、なおさら歪んでいるかもしれない。「愛されたい」と強く望んでいるのに「好かれない」、ってのは自然なことなんだろうか。ふと思った。


このままヒステリックな感じに書いて、どんな反応があるかってのは興味ある。個人的に「両性から嫌われそうなヒロイン」だと思ってる。ある一面では主人公に依存してベッタリで「あざとい」のに、いざ激情するとヒステリックに叫んで「めんどくさい」。「あざとくてめんどくさい」なんて、嫌われる要素満点じゃないか、なんて。思い過ごしなのか、考え方が間違っているのか。


何はともあれ、今さらキャラ路線を変更するわけにもいかない。問題はそれら一面をどの程度露出させるかって感じだろうか。

 

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