拡張彼女は、今までの作品よりSF色が強め。
クロノウサギやキミはキメラもある意味ではSFだけど、かなり緩い感じでのSF要素の使用だった気がする。
クロノウサギのSF要素はせいぜいタイムループの仕組みくらいなものだし。
キミはキメラのSF要素はせいぜい「キメラ」っていう遺伝子操作技術の産物くらいなものだし。
「サイエンスフィクション」ってのは、書く側にも読む側にもなかなか敷居が高い。
「これSFです」って言っても、「こんなの『サイエンスフィクション』やない。ただの『すこしふしぎ』」や」って嗤われることが多い。
「ハード古典SF」っつうものが存在していて、それが敷居を高くしている。
若者向けに書くならば、「ライトSF」くらいしか受け入れられないだろうと思っている。
「ライトSF」では科学考証やSF設定は、せいぜい「ストーリーのオマケ」程度の扱いってところだろうか。
ハードSFと違い、そこまで科学的厳密さは求められていない。
でも、「熱膨張って知ってるか?」的な事件を起こしてしまうと、総スカンを食らってしまうので注意しないといけない。
そもそも「SFの定義」というのは、非常にややこしい。
「ハードSF」
「ライトSF」
「すこし(S)ふしぎ(F)」
「サイエンスファンタジー」
「スペースオペラ」
「センス・オブ・ワンダー」
「スペキュレーティブフィクション(思索的小説)」
「ヒロイックファンタジー」
SFの定義論争はいろいろと厄介で。
「ファンタジーもSFだ」っていう主張もあれば、「ハードSF以外はSFではない」なんて言う人もいる。
俺が書いているSFは「人間に関わるあらゆる問題に対する文学的視索(スペキュレーション)」に近い気がするので、SF(スペキュレーティブフィクション)と言ったほうがいいんだろうか。
例えばフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、人間社会や歴史、文明、文化に対する巨視的な批判であるとして、単なる科学の礼賛に尽きないところから、スペキュレーティブフィクションの代表格として扱われている。ハードSFじゃないんだね……。
それは1960年代イギリスを中心に起きた「ニューウェーブSF」の流れで起きたもので、ハードSFでは主に外宇宙について語られているけど、ニューウェーブSFでは内宇宙(人間の精神みたいなもん)に話が向けられている。
寓話性、哲学性を持った、文学的価値にもスポットを当てられるSFが増えてきたのはこの頃からなそうで。
拡張彼女を俯瞰して見てみると、確かにスペキュレーション――「思索」「考察」の要素が含まれているような気もする。
スペキュレーティブフィクションってことにすっか?
SF色を強くするってことは、その分「SF的設定」についての「説明」が増えることになる。
ストーリーで楽しませるのはもちろんだけど、「SF的設定」のパズルで楽しませることも重要なのかなと。
ただ、長ったらしい説明文というやつは、展開をだらけさせる。
でもそれを怠ったら、SF色なんて強くならない。
SF色を強くしたいなら、それ相応に「知識のひけらかし」をしないといけない。
だから「SF」自体の敷居が高く、昨今はもっぱら敬遠されがちの気がある。
で、SF小説ってのは、なかなか売れない。哀しいかなそれが現実。
でも俺は、これからもずっとSF(的なもの)を書いていきたい。
だからいろいろ試したい。
ほんの少しいつもよりSF設定を厚くして、どんな反応があるかなーって。
それに、今の自分でどの程度まで設定を濃くできるかってのも興味がある。
あんまり「ストーリーじゃなくて設定で読ませる」っていう作品は好きじゃないから、その点は注意する。
今年に入ってから決めたけど、クロノウサギとキミはキメラとかえると剣鬼、それに拡張彼女は全て同一時間軸上の同一世界観とすることにした。
ホントは「クロウサとカエ剣」「キミキメとカクカノ」の二つの世界に分けるつもりだったんだけど、別にくっつけてしまっても差し障りないような気がしたし、むしろ世界観が広くなるかなと思ったり。
ただ、「クロウサとカエ剣」はどちらかというと「地上世界」でのストーリーで、「キミキメとカクカノ」はより「アンダーグラウンド」な背景があるように思える。
だから、同じ世界だけど方向性は違う感じにするかもしれない。というか方向性違うし。
でも同じ世界観で作品を構築すれば、そのたびに世界観を構築する必要がなくなっていろいろと便利。
もちろん、「剣と魔法のファンタジー」なんてものが書きたくなったら、別の世界観を構築するだろうけど。
でもその時だって、「平行世界」ってことにして元の世界観とは関連性を持たせるつもり。いくつかネタを溜めているけど、お披露目はいつになるやら。
ってか16万字行っちゃったねー。
プラトンのイデア論関係の記述をしていたらゴリゴリ字数が稼げたでござる。あとで少し削るしかない。
SF設定の肉付けは後回しにしているから、本筋ストーリーを書き終えたあとに肉付け作業をするわけで、やっぱりけっこうな字数になる気がする。
読みたい本や勉強したいジャンルがまだまだあるし、なかなかカクカノの旅が終わってくれない。
一度にこんな長い話書いたの初めてで、結果がどうなるのか非常に怖い。
でもこれだけの読書量とリサーチ量も初めてなので、少しでも実を結ぶといいのだけれど。
かなり設定の風呂敷を拡げていて、もっと突き詰めればもっと面白くなるような気がして、安易に書き終わりたくない。
「まだ面白い展開や設定があるんじゃないのか」ということを、ずるずると考え込んでしまう。
でもそれは辛いばっかりじゃなくて、知的好奇心がひたすらくすぐられる楽しい作業でもある。
誰かに強制されたわけでもない勉強ってやつは、本当に面白いわけで。