「悪」は、宗教によって定義がことなる。
キリスト教の悪は、カンタンだ。
根源がひとつしかないから。
「原罪」
だれもが聞いたことくらいあるだろう。
神が最初につくった男女、アダムとイブ。
神が「食べちゃだめだよー?」といったリンゴを、食べてしまった。
たったそれだけのことが、キリスト教における悪の根源。
欲と、高慢と、好奇心が悪なのだ。
神にさからってはいけないのだ。
────ふざけんじゃねぇよ。
欲と高慢と好奇心が悪?
高慢はまだしも、欲と好奇心がダメ?
んなもん、あらゆる人間が悪じゃねぇか。
さて、つぎは仏教だ。
仏教における悪は、すこしややこしい。
なんたって10コもカテゴリがある。
「十悪」
- 殺生:あやめること
- 偸盗:ぬすむこと
- 邪淫:みだらなこと
- 妄語:うそをつくこと
- 両舌:ひとを仲たがいさせること
- 悪口:わるぐちをいうこと
- 綺語:飾りたてた言葉をはくこと
- 貪欲:むさぼって飽きをしらぬこと
- 瞋恚:いかり憎むこと
- 愚痴:おろかで無知であること
おいおい仏教もきびしいな。
これまた、あらゆる人間が悪ってことだ。
生物をあやめない人間がいるか?
性欲をもたない人間がいるか?
悪口をいわない人間がいるか?
怒りをいだかない人間がいるか?
愚かではない人間がいるか?
いねぇだろ。
「10コのうち3つまでなら、あなたは善人です!」
こんなルールでもあるんだろうか。
ぼくは、10コすべてだ。
人間は基本的に、悪である。
これはよくわかった。
あとは度合いの問題だろう。
蚊をつぶす人間を、悪人とはよばない。
だが人間をつぶす人間は、悪人とよばれる。
悪人は、どうして悪人になるのだろう。
内なる悪を、どうして増幅させるのだろう。
暴力にさらされたせいか。
悪口にさらされたせいか。
血筋がわるいせいか。
人種がわるいせいか。
神を信じないせいか。
愛を信じないせいか。
環境のせいか、遺伝子のせいか、信仰のせいか。
ぼくにはわからない。
わからないが────まちがいない。
ぼくは悪人だ。
それだけはまちがいない。
環境も、遺伝子も、もうしぶんない。
狂人の家にうまれ、悪魔の血をそそがれた。
そしてだれのことも信じていない。
神だって、信じちゃいない。
慈愛にみちた神がいるなら、こんな世界にはなっていない。
神がいるなら、救ってくれよ。
できない? できないなら、いないのと一緒だ。
きっとだれも、ぼくに共感しないだろう。
ぼくの立場を、自分事のようにおもうことはないだろう。
ぼくは唯一無二の存在だ。
おごり高ぶった、悪人だ。
今から、ぼくがすることを、だれも正しいとはおもわないだろう。
べつにそれでも、かまいはしないんだ。